<局所麻酔>
痛い処置をするときは麻酔をします
キシロカインなどの局所麻酔薬のおかげで、
歯を削ったり、皮膚・粘膜を切ったり縫ったりできます
使う機会は多いです
ただし、
急変の原因になることもあるので、
十分な知識をもって使いましょう
局所麻酔薬で起こる問題として、
・心因反応(迷走神経反射)
・局所麻酔薬中毒(中枢神経系・心毒性)
・添加アドレナリンによるもの
・アレルギー反応
などがあります
急変は突然起こります
頭真っ白でも冷静に対応できるよう、
よく理解しておきましょう
「日本歯科麻酔学会」からも
「使用に関する提言」が出されており、
局所麻酔に関する事項は国試にも出やすいです
局所麻酔薬として有名なのが、
商品名:キシロカイン(一般名:リドカイン)です
切開・縫合・抜歯などの処置で使います
ふつう、
浸潤麻酔薬としては濃度 0.5~1% を使います
(ただし、歯科用カートリッジは2%です)
処置中も痛みがあれば追加しますが、
使っていい最大量(極量)を知っていますか?
局所麻酔剤キシロカイン®注(ポリアンプ)の
「添付文書」
↓
通常、成人に対してリドカイン塩酸塩として、
1回200mg
(0.5%液40mL、1%液20mL、2%液10mL)
を基準最高用量とする。
ただし、年齢、麻酔領域、部位、組織、症状、体質により適宜増減する。
キシロカイン注射液 1%
100mg/10ml
ポリアンプ
エピネフリン入っていない
リドカインだけの局所麻酔薬
極量
=200mg(1%液 20ml)
=これ2本分
・ すぐ効く(2~3分)
・ すぐ組織内に広がる
・ 作用時間= 60分(30~90分)
・ リドカインには軽度の血管拡張作用あり
キシロカインに
血管収縮薬(エピネフリン=アドレナリン)を混ぜると
血中への吸収が遅くなります
(薬がその場にとどまって長く効きます)
<エピネフリン添加によるメリット>
① 作用時間が延長
② 局所出血の減少(麻酔とは関係ないですが・・・)
③ 極量(使用可能な最大量)が増加
キシロカイン注射液1%エピレナミン(1:100,0000)含有
の添付文書
↓
基準最高用量:
1回50mL(リドカイン塩酸塩として500mg)
(ただし、年齢、麻酔領域、部位、組織、症状、体質により適宜増減)
エピネフリン「なし」の1%キシロカイン最高用量=20ml
エピネフリン「あり」の1%キシロカイン最高用量=50ml
↓
エピネフリンで最高用量が2.5倍 (=50/20)
大事なのでもう一度
<極量>
リドカイン単独:200mg(1%液 20ml(ポリアンプ2本))
↓
エピネフリン添加:400~500mg (1%液 40~50ml)
<麻酔方法別の基準用量>
()内はリドカイン塩酸塩の用量、 <>内はアドレナリンの用量
『浸潤麻酔』 2〜40ml (20〜400mg) <0.02~0.4mg>
『伝達麻酔』 3〜20ml (30〜200mg) <0.03~0.2mg>
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102A-31
局所麻酔薬に含まれるアドレナリンの作用で正しいのは?
1つ選べ
a 不安の除去
b 呼吸促進の防止
c 血圧上昇の抑制
d 悪心(おしん:吐き気の意)・嘔吐の防止
e 麻酔効果時間の延長
<解説>
キシロカイン(リドカイン)に
アドレナリン(=エピネフリン)を加えると、
血管がきゅっとしまって、
血中に麻酔薬が吸収されにくくなり、
麻酔薬が注射したところに留まるので、
麻酔効果時間が延長します
エピネフリン(=アドレナリン)は
どれぐらい混ぜればいいでしょうか?
↓
『10万〜20万分の1』がいいです
この『○分の1』という表現はエピネフリン特有です
キシロカイン注射液 1% E
エピレナミン(1:100000)含有
200mg/20ml
エピネフリン添加(「E」)
1%Eと書いてあります
1%のキシロカインに
「Eが入っています」の意味です
1%のE(エピネフリン)が入っているのではありません
小さく
「エピレナミン(1:100,000)含有」と書いてあります
エピレナミン=エピネフリンの意味です
1:100,000
↓
10万分の1(10万倍希釈)という意味
基準最高用量=50mL(リドカイン塩酸塩として500mg)
20ml入りであれば2.5本ということなので
少なくとも1本使用する分には問題ないでしょう
通常、『1%E(イー)入りキシロカイン』と呼ばれます
1%のE(エピネフリン)が入っているのではなく
「1%のキシロカインにEが少しだけ入ってる」
実は、
エピネフリン添加のキシロカイン®は3種類あります
キシロカイン濃度が0.5%、1%、2%の3つです
それぞれ混入されているエピネフリン量も若干異なります
0.5%、1% → 10万分の1(10万倍)
2% → 8万分の1(8万倍)
○万倍は「○万倍に薄めたエピネフリン」の意味です
エピネフリン10万倍と8万倍ではどっちが濃いでしょう?
↓
もちろん8万倍です
詳細は<アドレナリン(エピネフリン)>で説明します
ちなみに商品名は、以下の3種類です
キシロカイン®注射液1%エピレナミン(1 : 100,000)含有
キシロカイン®注射液0.5%エピレナミン(1 : 100,000)含有
キシロカイン®注射液2%エピレナミン(1 : 80,000)含有
®(アールマークやマルアールと読む)は、
Registerd(登録された)、登録された商標の意味です
歯科用キシロカインカートリッジ
リドカイン塩酸塩・アドレナリン注射剤
36mg/1.8ml
歯科で頻用されるのはこのカートリッジタイプです
このような「カートリッジ型歯科用局所麻酔薬」
日本で「1年間に6千万本!」も使われています
これは上の3種類のなかでどれと同じでしょうか?
↓
キシロカイン®注射液2%エピレナミン(1 : 80,000)含有
カートリッジは1.8mlです
薬剤添付文書によれば、
<浸潤麻酔又は伝達麻酔>
・薬液として:0.3〜1.8mL(1本まで)
・リドカイン塩酸塩として:6〜36mg
・アドレナリンとして:0.00375〜0.0225mg
<口腔外科領域の麻酔>
・薬液として:3〜5mL(約2.5本まで)
・リドカイン塩酸塩として:60〜100mg
・アドレナリンとして:0.0375〜0.0625mg
と書いてあります
リドカイン量をみると上のポリアンプやバイアル(小瓶)より用量が少なめです
(ポリアンプやバイアル(小瓶)は極量200mgでしたよね)
安全に使用できる量という意味でしょうか
実際に歯科用カートリッジを使用する際には、
・通常の処置なら1本
・高侵襲の処置(埋伏智歯の抜歯など)なら2本
105D-48
65歳、女性
下顎智歯の抜去を希望し来院
高血圧症で β遮断薬を内服中
8万分の1アドレナリン含有2 %リドカイン塩酸塩1.8 ml局所麻酔カートリッジを使用することとした
使用可能なカートリッジ数の上限は?
1つ選べ
a 1本
b 3本
c 5本
d 7本
e 9本
<解説>
智歯の抜歯ですが、既往に「高血圧症」
↓
<日本歯科麻酔学会>
「高血圧患者に対するアドレナリン含有歯科用局所麻酔剤使用に関する ステートメント」
高血圧患者:
アドレナリンによる有害事象発生の可能性あり
1/80,000 アドレナリン含有局所麻酔剤の初回投与量
→「目安:1.8 mLカートリッジ2本まで」
・必要最小量に留める
・治療前の血圧が180/110mmHg以上(収縮期,拡張期いずれか)
→歯科的に緊急性なければ,医科への紹介を優先
・投与中、180/110mmHg以上となった場合
→投与中止。
・投与後、180/110mmHg以上となった場合
→血圧が低下するまで十分観察続ける
選択肢では、
3本は選べないので、控えめに1本というところですね
<アドレナリン>
大事な薬です
アドレナリン=エピネフリン=エピレナミン
3種類の呼び名がありますが、いずれも同じ物質です
・アドレナリン
副腎から分泌される血圧上昇物質として,
日本人の高峰譲吉が世界で初めて結晶化に成功
・エピネフリン
アメリカの学者が提唱した呼称
・エピレナミン
アドレナリンとエピネフリンの間をとっただけ
(間とったらエピレナリンな気がしますが・・)
114C-19
カテコラミンはどれ?
1つ選べ
a グルカゴン
b アドレナリン
c エストロゲン
d オキシトシン
e カルシトニン
ところで、
ボスミンという薬を知っていますか?
心肺蘇生やアナフィラキシーに使う
危ないときのボスミン
ボスミン=「アドレナリン(エピネフリン)の商品名」
アドレナリン(エピネフリン)を考えるときは、
ボスミンを基準にします
エピネフリン製剤で、
最も濃いものがこのボスミン®です
使うときにはこのまま、もしくは薄めて使用します
ポイントは1つだけ。これを下で説明します。
ボスミン®(1mg/ml)=「1000倍」(1000分の1)
<元々の基準>
溶液1ml(1g)にエピネフリン1gを溶かしたもの=1倍
エピネフリン1gを手にすることはありません
あくまでも計算するための基準です
溶液10ml(10g)にエピネフリン1gを溶かしたもの=10倍
(要するに10倍に薄めたという意味です)
アナフィラキシーや心肺蘇生で活躍するボスミン®は、
溶液1mlに1mg
→1ml(1g)に1mg(0.001g)
わかりやすくするために1000倍すると
→1000ml(1000g)に1000mg(1g)なので1,000倍です
この何も調整していないボスミン®のことを1000倍ボスミンとも呼びます
決してボスミン®を1000倍に薄めたわけではないことに注意して下さい
ボスミン®=1000倍ボスミンです。
ちなみに「1倍ボスミン」はありません
そして、
ボスミン®1ml(1アンプル)を100倍希釈=10万倍
(1000倍を100倍希釈=1000×100=100000(10万))
100mlの生理食塩水をカップに入れて、
ボスミン®1ml(1アンプル)を注射器で吸って
カップに入れれば10万倍ボスミンです
(細かく言えば生食99mlに1アンプル(1ml)ですが)
エピネフリン添加のキシロカイン®で
「(1 : 100,000)」や「10万倍」というときは、
薄められたボスミン(エピネフリン)入りの
キシロカインという意味です
10万倍だと1ml にエピネフリン0.01mg入っています
こんな数字はすぐに忘れてしまうので、
生食100mlにボスミン1アンプル=10万倍
と覚えましょう
106D-49
30歳、男性
左口角部の知覚異常で星状神経節ブロックを行なった
第6頸椎横突起の高さで1%リドカイン塩酸塩6mlを注入
突然、全身けいれん発作を起こし意識消失
頸動脈で脈拍を触知する
チアノーゼを認める
適切な処置は?
2つ選べ
a 酸素投与
b 胸骨圧迫
c ジアゼパムの静注
d アドレナリンの静注
e アミノフィリン水和物の静注
<解説>
けいれん、意識障害を起こした「局所麻酔薬中毒」です
局所麻酔用リドカインを血管内(動脈や静脈)に注射してしまうと起こります
全身けいれん中は、呼吸が上手にできません
けいれんを止めるために最初に使うのはジアゼパム(ホリゾン®︎、セルシン®︎)です
「けいれん」のイメージは、
脳の神経細胞が興奮して全身の筋肉を動かす刺激を送ってしまっているので、
ジアゼパム(鎮静薬)で脳の神経細胞の興奮を止めて、
全身の筋肉が動いてしまうのを止めたいいうことです
つまり、「けいれん」=「脳の問題」
動いている筋肉の問題ではありません
b 胸骨圧迫は「心肺蘇生」で行うことですが、
d アドレナリンの静注も「心肺蘇生」で行われます
この「アドレナリン(ボスミン)の静注」は心停止やそれに近い状態では必要ですが、それ以外では推奨されません(不整脈、高血圧などを起こす可能性があるため)
アナフィラキシー では「筋注」です
→筋注後10分で血中濃度最高、40分で半減
108B-28
38歳、女性
診断:下顎右側智歯抜去後の三叉神経知覚異常
既往歴:なし
ある処置のため、1.0%メピバカイン塩酸塩1.0mlを注入
直後に意識消失
全身性硬直性痙攣が生じた
行っていた処置を示す
治療に用いる薬剤で正しいのは?
1つ選べ
a フロセミド
b ジアゼパム
c ニトログリセリン
d リドカイン塩酸塩
e アトロピン硫酸塩水和物
<解説>
痙攣(けいれん)を起こした「局所麻酔薬中毒」です
局所麻酔用リドカインを血管内(動脈や静脈)に注射してしまうと起こります
全身けいれん中は、呼吸が上手にできません
けいれんを止めるために最初に使うのはジアゼパム(ホリゾン®︎、セルシン®︎)です
簡単なイメージとしては、
脳の神経細胞が興奮して全身の筋肉を動かす刺激を送ってしまっているので、
ジアゼパム(鎮静薬)で脳の神経細胞の興奮を止めて、
全身の筋肉が動いてしまうのを止めるということです
107B-34
32歳、女性
主訴:右側下唇の麻痺
2週前に下顎右側第三大臼歯を下顎孔伝達麻酔下に抜去してから発現した
治療中の写真を示す
この治療法に伴う生理学的変化は?
2つ選べ
a 散瞳
b 血流量の増加
c 皮膚温の上昇
d 発汗量の増加
e 鼻腔通気量の増加
108C-103
急性炎症部位で低下するのは?
2つ選べ
a pH
b 痛覚閾値
c 局所血流量
d PGE2の産生
e 一酸化窒素の産生
<解説>
「炎症」あると「局所麻酔」効きにくい
これを確認する問題です
赤く腫れて、熱持ってるところに
キシロカイン注射してもよく効かないです
なぜでしょう?
① pHが低い場所=キシロカイン効果がでにくい
② 痛覚閾値が低い=痛みを感じやすい=敏感
110A-68
局所麻酔薬中毒の初期症状は?
1つ選べ
a 興奮
b 徐脈
c 意識消失
d けいれん
e チアノーゼ
<解説>
正解は、「麻酔中毒なのに最初は暴れる」です
麻酔なので、おとなしくなると思いますよね?
ところが、「局所麻酔薬中毒」では
急に暴れ出したと思ったら続いて
「けいれん」したりします
(急なので誰でもびっくりすると思います)
選択肢のなかで、けいれんも正解のはずですが・・・
興奮・多弁、舌・口唇のしびれ、痙攣、呂律困難、めまい、視力、 聴力障害、ふらつき、金属様の味覚など
↓
初期は大脳皮質の「抑制系の遮断」による「刺激症状」です
初期のあと、「興奮経路の遮断」による「抑制症状」としてせん妄、意識消失、呼吸停止などが起こります
http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/practical_localanesthesia.pdf
113A-17
4歳、女児
主訴:下唇の腫脹
昨日、局所麻酔下で下顎左側第一乳臼歯を抜去した
考えられるのは?
1つ選べ
a 咬傷
b 血管腫
c 口角炎
d 粘液嚢胞
e 口唇ヘルペス
<解説>
局所麻酔が効いていると、痛みがありません
切ったり、縫ったりしても痛みがなく、
もちろん噛んでも痛くありません
子供がわからずに「なんか変だなぁ」と
噛むと傷ができてしまいます
「○時間ぐらいは噛んだりしないように見ててあげてください」
こんな一言を親に伝えようと思うと、
キシロカインの「効果持続時間」が知りたくなりますね